・・・なぁ、知っているか?こんな何気ない時間ほど、尊くて愛しくて幸せなものだ、ということ。
「・・・・・・なんだ?もう帰る気か??」
いつものように依頼を済ませ、戻ってきた自分の部屋。そして、これもいつものように(いつのまにかなっていた)綾乃と一時的な
戯れを終えた後。彼女はいつもその余韻に浸る事無く彼女が本来いるべき場所へと戻ろうとする。(現に今も和麻の背後では散らば
った服をかき集め身につける最中の綾乃がいる。)それは彼女の気恥ずかしさと純粋さがさせる行動だと気づいているのだが、和麻と
してはそれがわかってはいても当然面白くはないもので。
だから、いつも。こうして綾乃の意識をこちらに向けさせるために。彼女の髪の一筋を弄んだりしているわけなのだが。(余談だが、
綾乃は髪の毛に神経でも通っているんじゃないか?と思うほど、弱かったりする。)
「あ・・・あたりまえでしょ?2日も家を空けるわけにはいかないし・・・/////////」
寧ろ、綾乃の父たる宗主はそうなることを願ってるんだが・・・。
とは、流石に口には出さないものの、その台詞は耳にタコが出来るほど聞き慣れた言い訳で・・・。
「・・・・・・綾乃。」
「!!?ひやっ!!!?//////////」
不意に、綾乃を背後から抱きしめ、ふわりと、自分の膝の上に乗せれば。低く、甘く。囁くように綾乃の耳元で名前を呼べば。面白い
ほど身体を振るわせる綾乃のその姿に、胸を熱くさせられる。
「ちょ・・・和麻!?」
「折角の休日なんだ。もっと楽しんでも良いんじゃないか?」
「た・・楽しみ方に問題があるでしょう!!!?////////」
それに気づきなさいよ!!!!
そう叫び暴れようとする綾乃を楽しそうに瞳を細め押さえ込んだ和麻は「さて?何のことだか?」とすっとぼけた言葉を口にすると、再
び膨れ上がった欲望に身を任せるように、戯れを再会させた。
「・・・・・・なんか・・・悔しい。」
「あ?」
頬を赤らめつつ、そう不満を口にする綾乃は、先ほどとは違い、抵抗する余力すら残されていないのだろう、相変らず和麻の膝の上で、
優しく、甘やかされている。
「何が悔しいんだ?」
知っているはずなのに、わざと、そう聞いてくる和麻に、綾乃はぷうっと頬を膨らませた。
(・・・そんなの、アンタの成すがままになってるあたし自身が悔しいに決まってるじゃない!・・・わかってるくせに・・・。)
本気で嫌ではないから、寧ろ本音は、普段はそんな風に扱わない癖して、こういうときだけ優しく、自分を『女』として扱ってくれる和麻が
嬉しくて。だからろくな抵抗を出来ずに居るわけなのだけど。でも、ふと、我に返ってみれば。それがなんだか無性に腹立たしくて悔しくて・・・。
「・・・・・・・・・。//////////」
無言で、そっぽ向く綾乃に、和麻は小さく苦笑して・・・
そんな和麻の余裕ある態度にも、綾乃は悔しいと思わせる理由の一つで・・・。
綾乃にとって一番悔しいと思うのは。抵抗できずにいる自分というよりは、こういう関係になって以来、一度も自分が主導権を得ることがで
きずにいるとことだ。(最も和麻に関することで主導権を得たことなど、皆無なのだが。)
(・・・何とかして、和麻のあっと驚く顔、みれないかしら??)
悶々と、考え込む綾乃の頭を微笑みながら撫で続ける和麻は、彼女は違う考えを浮かべていて・・・。
今まで、生きてきた中で、これほど安心できて、安らげて、幸せだと感じる時間を、感じたことがあっただろうか?
そう自問自答して、返ってくる答えはもちろん『NO』だ。
確かに翠鈴との日々は幸福に満ちていた。けれど、あれは、今思えば親鳥に縋る雛のように。ただぬるま湯に浸っていただけの、自己満足に
しか過ぎないものだったのだと。そう和麻は思っている。もちろん翠鈴への想いが偽りだったとか、そういうのではなくて、根本的に違うの
だ。
翠鈴へ向けた想いと、綾乃に向ける想いが・・・。
履き違えていたのだ。『愛情』と『正義感』を。
翠鈴を護りたいと思った。護らなければならないと思った。好きだから、そうするのが当たり前だと、勘違いしていた。精霊の力を借りなくて
も、護るだけの力はあると、驕っていた。
けれど、それは全て夢想で・・・。
本当に好きなら。愛しているなら。護るだけじゃなく、その障害そのものを完膚なきまでに滅してやればよかったのだと。不安要素を取り除い
てこそ、初めて安寧は訪れるものなのだと、翠鈴を亡くし力を手に入れ、ようやくそれに気づいた。
・・・本当に失いたくない存在なら。言葉ではなく態度で示せばよかったのだと―
だから。今。自分はもう二度と同じ過ちを繰り返さないために日々を生きている。
再び巡りあえた、かけがえのない存在たる少女と、共に生きるために。
「!!!!?」
ふと、珍しく考え込んでいたせいで、自分の身体に起きた異変に気づくのにやや時間がかかってしまって・・・。その異変に対し、和麻の脳裏
には「ありえない。」その言葉が響いた。
「・・・あ・・・やの???」
「隙あり〜。・・・どう?吃驚した???」
くすくすと、何故か自分の上で嬉しそうに、満足そうに笑う綾乃に、和麻は目を丸くした。
・・・一体何が起こっているのだ?と、和麻の脳内は僅かに混乱したが、すぐに現状を理解した。
そう、今、ありえないことに、自分は綾乃に押し倒されているのだ、と。
意識が深く自分の思考の渦に沈んでいたせいで、綾乃の悪戯に気づかなかっただけなのだが、綾乃はちゃんとわかっているのだろうか?・・・
綾乃(おんな)が和麻(おとこ)を押し倒すという、行動の意味を・・・。
絶対にわかってないんだろうなぁ・・・。)
そう、呆れつつも、和麻自身、そんな綾乃の行動が決して嫌ではなくて。
(主導権を握れた・・・というよりは俺を驚かすのに成功して満足、ってところか??ま、そうは問屋が卸さねぇって。)
「・・・ほぅ?やけに積極的になったもんだなぁ、綾乃サン??」
「・・・・・・へ?」
「折角の姫からのお誘いだ。しっかり応えてやらないとなぁ??」
「あ・・・え?あの・・・かず・・・ま???」
にやりと笑う和麻の表情と言葉に。今度は綾乃が目を丸くして慌てだした。が、やる気スイッチがonになった和麻の耳には当然そんな
綾乃の声ですら楽しみの一つでしかない。
全く・・・この無謀すぎる小娘は目が離せない。
そして何より彼女といろんな時間を過ごしたいと、そう思うのだ。今まで見れなかったものを。鮮やかな色彩を、世界を。光を与えてくれ
た彼女だから。傍で、同じ景色を見ていたい・・・。
「・・・主導権を握っているのは綾乃のほうなんだよ。」
「・・・和麻?」
「・・・責任、取れよな?」
「!!!?」
こんなにも自分の世界を明るく照らし出したのだから。これからもずっと・・・ずっと・・・・・・・・・。
FIN