みなさま、おはようございます。











「・・・かぁずぅまぁ!!!!!!!!!!!!!!!」










そんなママの叫び声と共に、『八神』家の一日が始まります。えぇ。この近所迷惑じゃないかと思われるくらいの
ママの大音量の叫び声も、日常茶飯事なのです。











「・・・パパ、相変らずお寝坊さんなのね??」








「仕方ねぇんじゃねぇの?一応父さんの仕事って夜がメインなわけだし?」








「でも、それを言ったらママだって同じでしょう?」








「・・・母さまは無駄に元気なのが取柄だから・・・。」











お家のダイニングテーブルに行儀よく座って、朝食を頬張る私たちの会話もいつもと変わらずで。








あ、自己紹介がすっかり遅れてしまいましたね?私としたことが、申し訳ございませんでした。








みなさま、お初にお目にかかります。私、八神と申します。(『』と書いて『ノゾミ』と読みます。)有名
都立の小学校に通う、現役小学生です。そして、私と向かい合わせで座っている男の子の名前は、八神。『
と書いて『マコト』と読むんです。カッコイイでしょう??私の自慢の双子の弟なんです。









そんな私たちを他所に、ダイニングの向こう側のリビングで、ようやく起きてきたのであろうパパとママの壮絶なバ
トルが繰り広げられるのもまた、日常茶飯事なのです。えぇ。このやり取りを見ないと、朝が来たんだと認識できな
いくらいに、私たちにとっては当たり前の光景で・・・。







あ、間違わないでくださいね?ママとパパ。毎回こうして喧嘩ばかりしてますが(というより、ママが一方的に怒っ
ているだけ、とも言うのですが。)夫婦仲は頗る円満です。ほら、アレです。『喧嘩するほど仲がよい』というやつ
です。(あれ?『夫婦喧嘩は犬も食わない』だっけ???)











「ふわぁぁぁ・・・。綾乃、お前、なんだってそんなに朝っぱらから無駄にテンション高いんだよ・・・。」







明らかに寝不足で寝たりない感を露にするパパに対し、ママはぐっとパパに詰め寄って・・・。







「あたし昨日からちゃぁんと言っておいたわよね!?今日は朝から『仕事』が入ってるって!!?」







「・・・言ってたっけ??」






「何回も言ったわよ!!」






ったく、何時まで経っても労働意欲がないんだから・・・。








そう呆れたように(半ば疲れきってるが正解かもしれない)ママを他所に、パパがやはり眠そうな仕草でこちらへとや
ってきた。(この状況でママを無視できるパパはある意味凄いと思うの。)










「おはよう、パパ。」






「おはよう、父さん。」







「・・・おぉ・・・相変らず早起きだなぁ、二人とも?」










そんなパパに私たちは声をそろえて朝の挨拶をすれば。パパは一見やる気のなさそうな表情だけど、実はかわいい子供
たちに朝の挨拶されたことが嬉しいに違いなくて。その言葉の優しさは普段のパパの言動の3割り増しくらい優しい。
それを物語るように、私の隣に腰を下ろしたパパはすっと私の頭を優しく撫でてくれる。パパのその大きくて暖かい手
が、私は大好きなのです。









「父さんが遅すぎるんだよ。もう7時半だよ?」







「まだ、7時半だろう?義務教育課程の、時間に縛られた子供と、真っ当な社会人の時間基準を一緒に考えるなよ。」







「・・・父さんはどう考えたって『真っ当な社会人』に値しないんじゃ・・・。」







「何を言う。どっからどう見ても『真っ当な社会人』だろう??」







「その前に『真っ当な人間』かどうかを疑うわね、あたしは!」








かつーんっと、ちょっとお行儀悪く、パパの前に熱々のブラックコーヒーの入ったカップを置いたママに、パパは相変
らずやる気なさそうに「失礼な。」と呟くと、カップを手に取り口付けた。・・・ちょっと熱すぎたのか、飲んだ瞬間自然
と眉を顰めたのは私の気のせいじゃないはず。








「・・・は解ってくれるよな?」








何を、とは口にしないパパだけど。その瞳は全てを物語っていて・・・。








「うん。パパと『一般常識』を引き合いに出すこと自体が間違いなんだよね!」







「・・・・・・・・・・・・え?」







「だって、どう考えたってパパは『普通のパパ』とはかけ離れてるんだもん。」









比べること自体が間違いだと、そう言い切れば。唖然とするパパを他所に・・・。









ッ!!!流石はあたしの娘だわ!!!」








あのパパに、一矢報いたらしい私に、背後から抱きついてくるママは何故か嬉しそうで・・・。ちゃんに至っては必死
で笑いを堪えている。・・・そんなに面白いこと言ったかしら???







そんな私に、パパは未だに唖然とした表情を浮かべているけれど。その瞳は。「理由は?」と、そう訴えかけている。








「だって、『普通のパパ』は、妖魔退治とかしないし、得体の知れない人たちに狙われたりしないもん。」







「『普通のパパ』っつーか、『普通の人間』は、だろ?それ言うなら。」







絶妙なちゃんのツッコミにも私はめげません。








「だから、比べちゃダメなんだよ。私のパパは、他のパパたちとは違う、たった一人の、自慢のパパなのです!」









「・・・得体の知れない奴にねらわれてるよーなのが、自慢のパパ、か???」








うんざりというか、絶句というか、そんなニュアンスの表情を浮かべるちゃんに対してママは何故か私の言葉に、優
しくて暖かい、優美な笑顔を浮かべていて・・・。













「・・・・・・。」







「ん?・・・ひやっ/////」








不意にパパに腰を引かれ、自分の椅子からふわりと、パパの膝へと移動させられた私は、パパにぎゅうっと抱きしめられ
て・・・。くつくつと、微かに笑うパパの笑い声が、耳元を擽って、なんだか恥ずかしい。










「・・・パパ?」







「ったく・・・どっちに似たらそんなに素直で可愛らしい性格に育つかねぇ??」







「それは当然、あたしでしょう??」







「寝言は寝て言え、猪突猛進女。」







「なっ!!!?」








ママの言葉をばっさり切ったパパに、ママは何か反論しようとするのだけど、それを制するように、穏やかなパパの声が
広いダイニングに響き渡る。









「・・・ありがとう、。やっぱりお前は俺の・・・いや、俺『たち』の『』だ。」







その穏やかの声に、私はただただ瞳をぱちぱちっと瞬かせた。









「・・・きぼう?」







「それって、の名前の由来??」








すっと響いてきたちゃんの声に、ママはふっと微笑みながら頷いてみせた。










「そうよ。あたしたちにとって、一番最初に生まれた子は『』だったの。過去を乗り越え、今を生きるための・・・。」







「んで、お前は俺たちの『』だった。俺と綾乃の子として生まれた、紛れもない『』。」









言葉遊びをするようなママとパパの言葉に。私たちは唖然とそれを受け止める。









あまり詳しくは聞いたことはないけれど、私たちが生まれる前のパパとママの身にはいろいろなことがあったらしいから。
きっとそんなママとパパがつけてくれた私たちの名前はきっと、二人の中でも特別だというのがよく解る。












「・・・さっきのの言葉じゃないけれど・・・あなたたちはあたしたちの自慢の子供たちよ。」











そう笑顔で言ったママは、そっとちゃんの頭を撫でた。











「・・・別に、自慢してもらえるほど俺たち何もしてないけど・・・。」









「そんな事ないわ。あなたたちが無事に生まれてきて、こうしてちゃんと成長してくれていることに意味があるのよ。まぁ、
多少、は天然入ってて危なっかしいし、は誰かさんに似て皮肉屋になりつつあるのが気に食わないけれど・・・。」










そう言ってじとっとパパを睨むママに、パパはいつもの冷静さを取り戻して、私を片腕で抱いたまま再びコーヒーを飲み始
めた。パパが口を噤む時は必ず何か後ろめたいことがあるから、なんだけど・・・自覚あるんだ。自分が皮肉屋さんだって。










「さて、。そろそろ時間でしょう?」








「あ、本当だ。」







「パパ、下ろして。」








「・・・ん。」









ママのその一言で、私たちは揃ってダイニングの壁にかかっている時計を目にして、やや慌てて動き始める。時計はいつもの、
私たちが家を出る時間を示そうとしていたから。







椅子にかけてあった制服の上着を羽織り、胸元のリボンをしっかり結びなおせば。足元に置いた鞄を背負って・・・。








「パパ、ママ、行ってきます!」







「仕事、頑張って。」









それぞれ一言ずつ言って、私たちは揃って玄関へと向った。取り残されたパパたちがどんな会話をしたかなんて私たちには
解らないけれど・・・













『八神』家の、新しい1日のスタートです。


























































「・・・・・・なんか・・・違和感あるよな。」








「え?」










ポツリと呟いた和麻に、綾乃はその言葉の裏側に気づき、切なそうな表情を浮かべた。が、その表情を見た和麻は「あー
違う、そういう意味じゃなくて・・・。」と再び苦笑すると、先ほど、子供たちが出て行ったほうへと視線を向けた。









「育て方一つでこうも違うんだなと、そう思っただけだ。」







「和麻・・・。」







決してその言葉の中に過去の自分と比較しての妬みなどは一切ない。ただ和麻自身が体験したものと、今、自分の子供た
ちが体験しているだろう感情。そして親になったからこそ気づいた感情。それぞれが今、和麻の中で渦巻いていて、何と
も言えない違和感を生じさせているのだ。









「・・・嬉しいんだ。俺は。あんな風に、無邪気に言葉を返してくれる、あいつ等の反応が。」









『父親』という者に畏怖するだけの幼少時代。あんなにも素直に『父親』と接することが出来なかった。それは自分が普
通の過程とは違う、特殊な家庭に生まれた所為だと理解はしていた。けれど何処かそういう、ごく普通の、当たり前の家
庭を夢みていた。最も、和麻の場合は特殊で、彼自身、炎術師としての才能さえあれば、そこそこ普通の家庭を味わうこ
とも出来たのだろうが、現実はそうではなかったのは言うまでもなく。そんな和麻は、自分の子供には、自分と同じ思い
はさせたくはないと、させまいと、そう心に決めていたのだった。









「・・・綾乃の言った通りになったな。」









そう言ってそっと瞳を閉じた和麻は10年前の事を思い浮かべた。






























10年前の10月10日。が生まれた日。







神凪家の一室で長時間に亘る双子の出産を終えた綾乃が、初めて瞳にした我が子に、そして、その出産に立ち会った和麻に
先ほど子供たちに言った言葉を紡いだのだった。









ほぼ1日がかりで双子を出産した綾乃は酷く衰弱していた。それに立ち会った和麻は、綾乃がこのまま産後経過が悪く、最
悪の事態になるのではと、酷く危惧していた。そんな不安そうな和麻に、綾乃は疲労感を隠さず、気だるそうに、けれどし
っかりと、和麻に告げたのだ。











『初めに生まれたこの子は、私たちの『』よ。過去を乗り越え、今を生きるために、私たちの『』になるべく、生
まれた子・・・。だから、この子は『ノゾミ』。『』と言う字を書いて『ノゾミ』。』







因みにこれが先に生まれたのが男の子のほうだったら『』と書いて『ノゾム』って読ませようと思ってたの。








そう、笑った綾乃に、和麻はただ「もう休め。」とか、只管綾乃の身体を気遣っていたのだが、当の綾乃はそれすら気づい
ていなくて、相変らずの鈍感ぶりだったのだが。








『そしてこの子は私たちの『』。あたしと和麻の子として生まれた、紛れもない『』。私たちが行き着いた『
でもあるこの子は『マトコ』。『』と書いて『マコト』。』









歌うような、綾乃の、二人の子の名付けに。誰もが聞き入っていて・・・









『綾乃・・・。』







『だから、あたしはまだ死ねないの。私たちの『』と『』の行く末を見届けるまでは。それに・・・生まれたばかりの子
を残して逝くなんて考えられないわ。寧ろ生きる支えになるわよ。』












だから、そんな顔しないで、和麻。









そう微笑んだ綾乃の顔は、強かな『母親』の表情だった。































「・・・今のあいつらは・・・俺の生きる支えだ。」










そっと過去の回想を終え、瞳を開いた和麻に、綾乃はにっこりと微笑んだ。









「じゃあ、そんなあの子やあたしのためにも、しっかり働いて来てね??」









「・・・そーいや、朝一から仕事だっけ??」










嫌なことを思い出したとばかりに顔を歪める和麻に、綾乃はにこやかに書類を渡した。









「そ。ちょっと厄介な依頼でね。和麻が正体探り出してくれない限りあたしは動けないからそのつもりで。」








「・・・なんだって、そんな面倒なの選んだんだよ・・・。」








面倒くさそうに溜息を吐く和麻に、綾乃は「心外だ。」と言わんばかりの表情を浮かべて、けろっと。








「決まってるじゃない。依頼料が高かったから。」








「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」










依頼料で仕事を選ぶとは何事だと、言ってやりたい気もしたが、けれど和麻自身も、一昔前までは彼女と同じような仕事の
選び方をしていたので文句は言えない。











「・・・なによ、文句ある?」









「いーや。『神凪宗主』の命と在らば、謹んでお受けいたしますよ。」









そう苦笑した和麻は「それに・・・」と言葉を繋げた。










「『仕事、頑張って』なんて言われたら、頑張るしかないよなぁ・・・。」










そう、口元を歪めた和麻の働き振りがどうだったかは、関係者のみが知る事で。







唯一ついえることは、今、八神和麻は。『全て』を手に入れて幸せな日々を送っている。と、いうこと。
















続く?